内村航平選手の現役引退発表について思ったことを書いていきます。
内村航平選手、本当にお疲れさまでした。
2011年の東京世界選手権から本格的に体操を見始めて十年、本当に楽しい時間をありがとうございました。
内村航平選手の体操は私にとって教科書みたいなもので2011年から2012年にかけては寝る間も惜しんで内村航平選手の実施してる技がわかるようになりたいと必死に見ていたことが思い出されます。

今では少しだけ体操がわかるようになってきて、楽しく観戦することが出来ていますがその根源は内村航平選手の2011年東京W杯前のインタビューでの「点数じゃないですね。体操は」という言葉でした。
当時はこの言葉の意味が理解できず真意がわかりませんでしたが、たくさんの演技を見るうちに少しずつ感覚的に理解していけたように思います。
この言葉をはじめ、内村航平選手はインタビューなどでもただ質問に答えるだけでなく体操を見る側に言葉を問いかけて考える余地を与えてくれていたように感じました。

■凄さについて
これは多くの偉人に共通することだと思うのですが「わかりやすく凄い」ことです。
一番わかりやすいのは結果でしょう。
五輪個人総合2連覇、世界選手権個人総合6連覇、全日本個人総合選手権10連覇、NHK杯10連覇、これらをすべて含んだ個人総合40連勝、世界選手権の種目別ゆか金、平行棒金、鉄棒金など挙げていけばきりがないほどの結果を残したことは万人に「わかりやすく凄い」ことを示しています。

私が個人的に内村航平選手の凄さについて思っていることは二つあります。

一つは美しい体操と着地を止める体操という初心者でも分かりやすいところを見所として示し続けてくれたこと。
体操を見始めたときはどこに注目したらいいのかわかりませんでしたが、「美しい体操と着地」は見ればすぐにわかるポイントなのでここをずっと示し続けてくれたことは、とても分かりやすい部分で体操競技の魅力を教えてくれていて、体操を見る目を育ててくれたのかなと思います。

もう一つは体操の人気を向上させてくれたこと。
これはまさに私ですが、内村航平選手の活躍を知り、体操に興味を持ちファンになりました。
世界には私のような方がたくさんいると思いますが、ファンを増やし体操の人気向上に最も貢献した偉大な体操選手だと言えると思います。

■全盛期について
様々な意見があるとは思いますが私は2011年だと思います。
特に鉄棒の着地ではジャパンカップ~世界選手権までで6回連続でピタリと止めてまさに「内村航平の着地」を体現したようなシーズンだったと思います。
また2011年はゆかで「リ・ジョンソン(G)」を含む7.0の構成を実施したり、鉄棒の「カッシーナ(G)」を個人総合に投入、跳馬では「ヨー2」を実施するなど限界などないように見えました。

■世界の体操選手に与えた影響
美しい体操と着地を止めることは世界の体操選手に大きな影響を与え、多くの選手たちに内村航平選手の面影を感じることが出来ます。
アメリカのサミュエル・ミクラックさんは体線の見せ方でも内村航平選手を意識していたのではないかと思います。

内村航平選手と言えばコバチの実施が素晴らしいことで有名です。
凄い高さを出し、顎を引き、小さくかかえ込み、そして宙返りの最後で足を伸ばし、身体の開き局面を十分に表現してからキャッチする独特の表現は「コバチ ウチムラスタイル」と呼ばれます。
世界中でウチムラスタイルでのコバチを実施する選手が多く見られるようになり、影響力の高さを窺い知ることが出来ます。

最後の必殺技として取り組んだH難度の「ブレットシュナイダー」ですが、H難度という超高難度の技でもしっかりと脚を閉じ、足の指先まで神経を行き届かせ、しっかりと身体をひねり切り、余裕を見せてからバーをキャッチするという動きをすることが人間でも可能なんだということを示してくれたのだと思います。
「僕に出来たんだからみんなもどんなに難しい技でも美しく実施することが出来るんだ」という内村航平選手からの世界の体操選手へのメッセージが込められていたのではないかと思っています。


■一番好きな技
私が内村航平選手が実施する技の中で一番好きなのはコバチです。
コバチを集めた動画は自分でもとても気に入っています。

前述した2011年が全盛期ということに関連するのですが、特に2011ジャパンカップ~2011世界選手権はキャッチする位置が完璧でこのコバチの実施を見ても全盛期だったのではないかという所以にもなっています。

■各種目で一番好きな演技をご紹介
最後に各種目で一番好きな演技をご紹介したいと思います。

ゆか 2014南寧世界選手権・個人総合決勝

技順グループ
技と技の内容(通称など)難度組み合わせ加点

1


ロンダート~
後方伸身宙返り1回半ひねり

C

2
+前方伸身宙返り2回半ひねりE0.1
3前方かかえ込み宙返り1回ひねりC
4+前方伸身宙返り2回ひねりD0.1
5
ロンダート~後転とび~
後方かかえ込み2回宙返り2回ひねり:(かかえ込み新月面宙返り)

E

6
ロンダート~後転とび~
後方伸身宙返り2回半ひねり

D

7+前方伸身宙返り1回半ひねりC0.1
8フェドルチェンコ:下向き(ロシアン)1080°転向
C
9
ロンダート~後転とび~
トーマス転:後ろび1回半ひねり前方かかえ込み宙返り転

D

10
ロンダート~後転とび~
後方伸身宙返り3回ひねり

D

Dスコア:6.6(E2 D4 C4 CV:0.3)
Eスコア:9.166
得点:15.766
内村航平選手の数ある素晴らしい演技の中でも最高峰の演技。
内村航平選手の代名詞である着地を全て決めた物凄い実施です。

あん馬 2012ロンドン五輪・個人総合決勝
技順グループ
技と技の内容(通称など)難度
1逆交差(セア)倒立:逆交差1/4ひねり1ポメル上倒立経過、下ろして逆交差入れ支持
D
2E難度のフロップ:1ポメル上で4フロップ
横横でシュテクリB→横縦ループ→縦横ループ→横横でシュテクリB
E
3D難度のコンバイン:1ポメル上で2フロップから下向き(ロシアン)180°転向
横縦ループ→縦横ループ→下向き(ロシアン)180°転向
D
4ロス:下向き(ロシアン)360°転向3/3部分移動D
5ウ・グォニアン:下向き(ロシアン)720°転向3/3部分移動E
6マジャール移動:縦向き旋回前移動3/3部分
1馬端~2ポメル~3あん部馬背~4ポメル~5馬端
D
7シバド移動:縦向き旋回後ろ移動3/3部分
1馬端~2ポメル~3あん部馬背~4ポメル~5馬端
D
8
縦向き旋回前移動1/3部分
1ポメル上での縦向き旋回:縦横ループ
A
B
9縦向き旋回後ろ移動2/3部分B
10dsA(ダイレクトシュテクリA)倒立3/4(270°)ひねり3/3部分移動下りD
Dスコア:6.3(E2 D6 B2)
Eスコア:8.766
得点:15.066
ロンドン五輪ではとても苦戦し鬼門となりました。
D難度のコンバインで旋回に上下動が出てしまいますが堪えます。
予選、団体決勝でミスの出た下り技もしっかり決めるなど内村航平選手の意地とプライド、気持ちの強さが垣間見える演技だと思います。

つり輪 2018全日本シニア選手権・個人総合
 
技順グループ
技と技の内容(通称など)難度
1後方伸腕伸身逆上がり中水平支持:(後転中水平支持)F
2後ろ振り上がり中水平支持E
3Ⅱ 後方伸腕伸身逆上がり(後転)十字懸垂:アザリアン
D
4後ろ振り上がり倒立
C
5屈身ヤマワキ:前方屈身2回宙返り懸垂=ジョナサンD
6ヤマワキ:前方かかえ込み2回宙返り懸垂C
7ホンマ十字懸垂:輪の高さで前方屈身宙返り直接十字懸垂D
8ほん転逆上がり倒立C
9後方車輪(ほん転逆上がり)倒立経過B
10後方かかえ込み2回宙返り2回ひねり下り:(かかえ込み新月面宙返り下り)E
Dスコア:5.9(F1 E2 D3 C3 B1)
Eスコア:8.400
得点:14.300
「後転中水平支持(F)」を試合で初めて実施したDスコア5.9の演技が一番のお気に入りです。
どんな状態でも前へ進み新しい技に挑戦する内村航平選手らしい向上心の高さを見ることが出来ます。

跳馬(3演技)

ロンドン五輪・個人総合決勝
シューフェルト(伸身ユルチェンコ跳び2回半ひねり=ロンダートから後転跳び後方伸身宙返り2回半ひねり)
Dスコア:6.6
Eスコア:9.666
得点:16.266
内村航平選手のシューフェルトは着地時の腰の位置の高さが本当に凄いです。

2014南寧世界選手権・個人総合決勝

ヨー2(前転跳び前方伸身宙返り2回半ひねり) 
Dスコア:6.0
Eスコア:9.633
得点:15.633
世界選手権の舞台でヨー2の着地を完璧に決めてしまうのもさすが内村航平選手です。

リオ五輪・個人総合決勝
リー・シャオペン(ロンダートから1/2ひねり前転跳び前方伸身宙返り2回半ひねり)
Dスコア:6.2
Eスコア:9.366
得点:15.566
内村航平選手を象徴する技の一つ、リー・シャオペン。
跳馬の最終地点にたどり着いた素晴らしい実施を五輪の大舞台で見せてくれました。

平行棒 2013アントワープ世界選手権・種目別決勝

技順グループ
技と技の内容(通称など)難度
1



前振り(腕支持)上がり開脚抜き倒立
マクーツ
前振り片腕支持3/4ひねり単棒横向き倒立経過、
軸手を換えて後ろ振り片腕支持3/4ひねり支持
B
E



2ヒーリー:後ろ振り片腕支持1回ひねり支持D
3ドミトリエンコ:前振り(腕支持)上がり後方かかえ込み2回宙返り腕支持
(腕支持からのモリスエ=アームモリスエ)
E
4棒下宙返り倒立D
5屈身ベーレ:懸垂前振り(後方車輪)後方屈身2回宙返り腕支持)E
6
後方車輪倒立:ケンモツ
C
7ハラダ
前振り(腕支持)上がり後方かかえ込み宙返り1/2ひねり:(アームライヘルト)
D
8モリスエ:棒上後方かかえ込み2回宙返り腕支持D
9前方開脚5/4宙返り開脚抜き腕支持:(爆弾カット)D
10後方屈身2回宙返り下りD
Dスコア:6.7(E3 D6 C1)
Eスコア:8.966
得点:15.666
日本勢として32年ぶりに世界選手権の種目別決勝平行棒で金メダルを獲得した演技です。
内村航平選手の「ドミトリエンコ」が大好きです。
2013年は「モリスエ」から「爆弾カット」を連続させていてるところもお気に入りの構成です。

・鉄棒 2021北九州世界選手権・種目別決勝鉄棒

技順グループ
技と技の内容(通称など)難度組み合わせ加点
1ブレットシュナイダー:コバチ2回ひねり
バーを越えながら、後方かかえ込み2回宙返り2回ひねり懸垂
H
2カッシーナ:伸身コールマン
バーを越えながら、後方伸身2回宙返り1回ひねり懸垂
G
3コールマン
バーを越えながら、後方かかえ込み2回宙返り1回ひねり懸垂
E
4シュタルダーとび1回半ひねり片大逆手
後方開脚浮腰回転倒立とび1回半ひねり片大逆手
D
5アドラー1回ひねり片逆手倒立
前方浮腰回転振り出し1回ひねり片逆手倒立
D
6〜ヤマワキ(伸身コスミック):後ろ振り上がり伸身閉脚とび越し1/2ひねり懸垂D
7エンドー:前方開脚浮腰回転倒立B
8アドラー1/2ひねり倒立:前方浮腰回転振り出し1/2ひねり倒立D
9クースト:後方とび車輪1回ひねり(ホップターン)C
10後方伸身2回宙返り2回ひねり下り:ワタナベ(伸身新月面宙返り下り)E
Dスコア:6.6(H1 G1 E2 D4 C1 B1)
Eスコア:8.000
得点:14.600
「ブレットシュナイダー」と「コールマン」は近づいてしまいましたが、気持ちのこもった最高の演技だったと思います。
特に着地は世界中の体操ファンが期待している中で完璧な実施でこれぞ「内村航平の着地」を見せてくれてとても感動しました。

私が体操を見始めてすぐに内村航平選手の「体操は点数じゃない」という言葉を聞いてどういうことだとずっと考えていましたが今日の内村航平選手の体操を見てようやく答えが分かったような気がします。
結果でも得点でもなくその演技がとても心に響いて魂が揺さぶられ感動しました。

最後になりますが内村航平選手、たくさんの素晴らしい演技を見せていただき本当にありがとうございました!